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マチフル -machifull-

新潟や日本や東南アジアの街ネタブログ。見たり聞いたり読んだり買ったりの感想メモも。目指すは陸マイラー。

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【爆走社長の天国と地獄】地方都市にサッカーチームを!奇跡と挫折の15年

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ナビスコカップで日本一に輝いたと思ったら、翌2009年にはJ2へ降格し、気づけば昨年はJ3に…。まさに天国から地獄へと転落していった大分トリニータ。
なぜこんなことが?と思っていましたが、そこには、キャリア官僚を辞め、私財をつぎ込んでまでトリニータに全力を注いだ男の人間ドラマがありました。

『オシムの言葉』の著者・木村公彦さんが『爆走社長の天国と地獄 大分トリニータVS溝畑宏』(小学館文庫)で、トリニータと運命をともにした溝畑宏さんの15年間に迫っています。
いやぁ、面白かった。久しぶりの一気読み。まさに「事実は小説より奇なり」。映画になりそうなほどの波乱万丈ぶりです。

 

爆走社長の天国と地獄 ?大分トリニータv.s.溝畑宏?(小学館新書)

爆走社長の天国と地獄 ?大分トリニータv.s.溝畑宏?(小学館新書)

 

スタートはサッカー日韓W杯でした。
自治省からキャリアとして大分県に出向赴任した溝畑宏さんは、大分県にW杯会場を誘致するためにはJFL以上のチームが必要と動き出します。
W杯がキッカケというのはアルビレックス新潟と一緒ですが、トリニータが違うのは既存のチームではなくゼロから立ち上げたというところです。
ここから溝畑さんの資金集めに奔走する日々が始まります。

溝畑さんは人並み外れた営業力を発揮します。
「地方から世界を目指す」と大風呂敷を広げ、接待では裸になり○毛を燃やす―。
高級官僚らしからぬ営業スタイルでスポンサー社長の心をつかみ、獲得した出資金や協賛金は2ケタ億円にも及びます。
すごいのは大分県外の、しかもサッカーには興味のなかった会社社長からも、出資や協賛を引き出すところ。
どれだけプレゼン大王なのか、一度見てみたいほどです。いえ、尻は見たくありませんが。

朝日ソーラーやペイントハウスなど、裸一貫、一代で事業拡大を果たしたスポンサー社長たちの生き様も詳細に描かれています。
でもこれらスポンサー企業も次々行政処分を受けたり経営破綻したりと、天国と地獄を経験することになってしまうんですね。
音楽レーベルが胸スポンサーになった小室哲哉に至っては、詐欺の疑いで逮捕されてしまい…。
「デスノート?」と言いたくもなります。

スポンサーが続かず、資金的には首の皮一枚で自転車操業が続きながらも、チームは順調に昇格します。
そしてJ1に昇格して6年目の2008年には、ついにナビスコカップで優勝!
溝畑さんが言い続けていた日本一の夢が実現した瞬間でした。
…と、映画だったらここでハッピーエンドなのですが、人生は続きます。
そしてチームの自転車操業も。

いえ、実際には自転車操業は続きませんでした。
翌年のチームはまさかの連敗続きで、J2降格が決定。
スポンサーの撤退で資金的にもショートし、Jリーグから6億円もの資金融資を受けることとなり、溝畑社長は辞任に追い込まれます。
大分にスタジアムとW杯誘致とトリニータを作り上げた功労者を、戦犯として追放したのです。
ここから続く低迷の歴史は冒頭に書いたとおりです。

◇ ◇ ◇

この本の帯には『「地方創生」を問う傑作ノンフィクション』とあります。
この本は地方がどのような権力構造で成り立っているかを表しています。

そこには前知事と新知事の確執があり、また「新しいことをしようとすると反対される」という地方共通の構造がありました。
トリニータという名前は、県民・企業・行政がチームを支える三位一体(トリニティ)から来ています。
政官財の主流派から孤立無援の状態で奔走した溝畑さんの15年を見ると、この名前も皮肉に思えてきます。

◇ ◇ ◇

この本にはアルビレックス新潟が何度か登場します。
『大分と同様に親会社がなくても高い観客動員数が読めて、後援会が毎年1億円の支援金を準備できるチーム』と。
地方で親会社なしにプロサッカーチームを維持できているのは、たしかに奇跡に近いことなんですね。
このことを誇りに思いながらも、最近はホームの観客動員が2万人を切ることも多く、奇跡がどこまで続くか心配になってしまいます。

あと半月ほどで今年のJリーグが開幕します。
昨年はぎりぎりJ2降格を逃れ、今年は社長も監督も主力選手も一新したアルビレックス新潟。
とにかく観に行きたくなる、観てて楽しくなるような試合をして、少しでも観客動員を伸ばしてほしい、と思わずにはいられません。