マチフル -machifull-

新潟や日本や東南アジアの街ネタブログ。見たり聞いたり読んだり買ったりの感想メモも。目指すは陸マイラー。

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【白い孤影 ヨコハマメリー】横浜のローカル性を映し出す、生ける都市伝説

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初めてメリーさんを見たときは、驚くとともに、横浜という街の懐の深さを感じました。

『白い孤影 ヨコハマメリー』は、横浜ローカルのいわゆる都市伝説的存在だったおばあさん、メリーさんの人生をたどったドキュメンタリーです。
メリーさんは以前にも舞台やノンフィクション映画にもなっていました。
横浜を舞台にした映画『探偵濱マイク』シリーズにも登場しています。

 

白い孤影 ヨコハマメリー (ちくま文庫)

白い孤影 ヨコハマメリー (ちくま文庫)

 

 

『横浜の人々にとって、メリーさんを語ることは人生を振り返ることでもあった』と著者の檀原照和さんは言います。
僕もほんの4年間の横浜暮らしをメリーさんと振り返ってみたいと思います。

◇ ◇ ◇

僕が横浜に暮らしたのは1991年からの4年間で、その間に、みなとみらいにランドマークタワーが開業しました。
ほんの4年間でしたが、みなとみらいビフォアとアフターを見ることができたのは、ラッキーだったかもしれません。
今でこそみなとみらいや赤レンガ倉庫などキラキラな街の印象が強いかもしれませんが、当時はまだ街に影の部分が色濃く残っていました。

山下公園は多くのホームレスが根城にしていましたし、おしゃれ商店街・元町の最寄り駅の石川町駅も、反対側は日雇い労働者のあふれるドヤ街で、たびたび暴動騒ぎが起きていました。
当時僕は伊勢佐木町にあった百貨店でアルバイトをしていたのですが、すぐ裏は風俗店と違法カジノの派手なネオンが立ち並ぶ街。
そして時々配達に行く辺りは、京急のガード下に並ぶピンクの灯りの違法風俗店でオネエさんがずらり客引きをしていました。

あっさり端麗で健全な街だった新潟から出ていった僕にとって、横浜は混沌とした部分が残る刺激的な街でした。
メリーさんはそんな横浜で、戦後の混沌をそのまま体現した生ける都市伝説でした。

全身白装束で、顔は白粉で真っ白、目のまわりは歌舞伎のような目張りがくっきり。かなりのお年のようで腰はほとんど直角に曲がっていますが、毎日伊勢佐木町界隈を歩き回っていました。
百貨店に毎日来るあのおばあさんは何なのか?と店員さんに聞いたら、あの人は戦後間もなくから今も現役で客引きをしている街娼で、愛人だった米兵が迎えに来るのをああして待っているのだと教えてくれました。

この本によると僕がメリーさんを見かけていたのは最晩年の頃で、その後間もなく横浜を離れ、生まれ故郷の老人ホームに入ったのだそうです。
ちょうどその頃はランドマークタワーやクイーンズスクエアができるなど、横浜が大きく変化している頃でした。
戦後の混沌が消え、キラキラしたイメージに変わっていくと同時に、メリーさんは横浜を去っていたのでした。まるで居場所がなくなっていくのを悟ったかのように。

◇ ◇ ◇

学生の僕にも街の変化は感じられました。
FM横浜が山下公園前の産貿センターからランドマークタワーに移転したのは1993年。
当時はかっこよかったんですよ、FM横浜。アメリカ風に洋楽中心の選曲で、時々バイリンガルのDJが入って。横浜港に入る船や、湘南の波の情報も流れたりして、これが横浜の音なんだ、と思いました。
産貿センターにあった頃は、学生でも気軽に出入りできる街のラジオ局という雰囲気がありましたが、ランドマークタワーに移ってからは気軽に出入りなんてできなくなってしまいました。

 

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野毛の大道芸祭りが横浜市主催に変わったのも、ちょうどこの頃です。
大道芸には学生ボランティアみたいな形で関わっていたのですが、もう来年からボランティアはいらないので…と言われたのを覚えています。
そのまま就職活動に突入して、大道芸との関わり自体なくなってしまったのですが、街が大きな資本に取り込まれていくような気がしました。

◇ ◇ ◇

今こうして東京に暮らすと、改めて横浜との違いを感じます。
東京は全方向から人と情報が集まる、誰のものでもない街。
横浜は東京に近いけど、地元の人だから知りうる情報が共有される街。

最初メリーさんを見たときはびっくりしたけど、メリーさんの存在を知ることで地元に暮らす共通語が持てるというか…。
メリーさんだけでなく、FM横浜とか野毛の街なども横浜ローカルの共通語のひとつだったのかなと。
そんなローカル性のある街だから、地方から行った僕にもどこか居心地がよかったのかも…と改めて思い出させてくれた一冊でした。