マチフル -machifull-

新潟や日本や東南アジアの街ネタブログ。見たり聞いたり読んだり買ったりの感想メモも。目指すは陸マイラー。

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【僕たちの戦争】戦時中の日本兵と現代のフリーターがタイムスリップ…結末は?

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10年以上前の作品だからネタバレしちゃってもいいよね?
この作品、やっぱり気になるのはラストシーンです。
健太と吾一は元の世界に戻れたのでしょうか。

『僕たちの戦争』は、戦時中の特攻隊訓練生・石庭吾一と、現代のフリーター・尾島健太が入れ替わってしまうタイムスリップもののお話。
欅坂46じゃないよ。
作者は『明日の記憶』『神様から一言』でも知られる荻原浩。
戦時中と現代のカルチャーギャップを作者得意のコミカルさで描きながらも、現代に暮らす僕たちの視線で戦争について考えさせてくれる作品です。
2006年にはTVドラマにもなったようです。

 

僕たちの戦争 新装版 (双葉文庫)

僕たちの戦争 新装版 (双葉文庫)

 

 

「お国のために死ぬ?マジ、ありえない」と思いながらも、否応もなく特攻隊に出願「させられて」しまう健太。
「こんな堕落した国のために命をかけていたのか」と現代の日本に呆然としながらも、健太の恋人ミナミに心ひかれていく吾一(健太と吾一はうり二つで、ミナミは2人が入れ替わったことに気づいていません)。
そんな健太と吾一が時代を越えて、8月16日に沖縄へ引き寄せられていきます。

玉音放送の翌日にもかかわらず、同じ潜水艦に乗る仲間を守るために人間魚雷「回天」で沖縄伊江島近くへ出撃する健太。
そして吾一はミナミと一緒に訪れた伊江島で、海中のさんごに捕らわれ身動きが取れなくなってしまいます。
昭和20年と平成18年の同じ日、同じ時刻に同じ沖縄の海中にいた2人は、再び入れ替わることができたのか?
この部分がはっきりと描かれないまま、健太(または吾一)が海上に浮かび上がるのをミナミが見つけるところで小説は終わってしまいます。
うおー、気になるじゃないか!
余韻が残るという以上に、作者の手中にハマり悶々としてしまいました。

◇ ◇ ◇

健太と吾一は再び入れ替わり、元の世界に戻れたのか、検証してみたいと思います。
・健太…回天で沖縄伊江島近くへ出撃。閃光が弾け、海中に放り出される。生きているのか、死んでいるのかも分からないまま、水流に翻弄され、意識が遠のいていく。
・吾一…伊江島の沖合で、海中に身を投じ海底を目指す。ため込んだ最後の空気を口から吐いたところで、ウェットスーツのかぎ裂きがさんごの突起に引っかかって動けなくなってしまい、意識が薄れていく。
・ミナミ…沖に消えた健太(実際には吾一)を心配するミナミのおなかには、健太(実際には吾一)の子どもを宿していた。海から健太が戻ってきたら、このことをちゃんと伝えよう、そう思ったところで、波のずっと向こうにゴマ粒みたいな頭が見えた。「健太だ」

ポイントになるのが、健太が一緒に乗っていた潜水艦の仲間です。
なんと、そこに乗っていたのは健太のおじいちゃんと、ミナミのおじいちゃんだったのです。
ミナミのおじいちゃんがここで亡くなってしまっては、ミナミが生まれてこなくなってしまう…このことに気づいた健太は回天に乗ろうとしたミナミのおじいちゃんを突き飛ばし、自ら回天に乗り込みます。
「お国のために死ぬ?マジ、ありえない」と思っていた健太が最後に自ら回天に乗り、結果的に愛する人を守ったのです。

自らの命と引き換えに愛する人を守った健太。
再び入れ替わることはなく、現代の伊江島で海から戻ってきたのは吾一。
そして、これからは吾一が健太の遺志を引き継ぎミナミを守り続けていく…僕はそう思いましたが、いかがでしょう。
本当は健太には現代に帰ってきてほしいと思いながら読んでいたので、切なくなってしまいました。

いろいろ語りたくなってしまう奥深さのあるこの作品、昨年には文庫で新装刊されたので気になる方はぜひ。