マチフル -machifull-

新潟や日本や東南アジアの街ネタブログ。見たり聞いたり読んだり買ったりの感想メモも。目指すは陸マイラー。

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【アメリカン・スナイパー】観終わった後の消耗感と、中東で繰り返される現実

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観終わって、これほどまで言葉が見つからなかった映画はなかった気がします。
しかも実話だなんて…。

クリント・イーストウッド監督の映画『アメリカン・スナイパー』を観てきました。
池袋の新文芸坐でイーストウッドの関連作品を連続上映するイベントをやっていて、おかげで、傑作との噂は聞きながらも未見だったこの作品をスクリーンで観ることができました。
2014年公開のこの映画は、イラク戦争で「伝説」と言われた実在の狙撃手クリス・カイルの壮絶な生涯を追った実話を映画化したものです。

 

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スクリーンで観ているだけで消耗し疲れ果ててしまうような壮絶な戦闘シーン。いつどこから弾が飛んでくるか分からない緊迫感。砂漠の乾いた空気…。
そんな戦地での体験でPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまったカイルが、退役軍人との交流で少しずつ人間の心を取り戻していくのですが…あのラストシーンは言葉にならないです、実話だけに。
エンドロールは完全なる無音。観ている客席も静まり返ります。すごい映画です。

◇ ◇ ◇

冒頭、クリスは父親に「人間は羊、狼、番犬に分けられる。お前は弱い羊達を守る番犬になれ。狼にはなるな」と言われて育ちます。
この「羊」「番犬」「狼」が、この映画で重要なキーワードになります。

アメリカ同時多発テロを契機に始まったイラク戦争で、特殊部隊の一員として派遣された隊員たちは「世界の番犬」でした。
アメリカを中心とした欧米諸国の平和を維持するには、「狼」であるテロ組織の動きを封じ込める必要があったのです。
しかしイラク戦争が終わった後もテロ組織は生き続け、今はIS(イスラム国)と呼ばれる新たなテロ組織が世界を脅かしています。
番犬が新たな狼を生んでしまったのかも、とさえ思ってしまいます。

映画では「虐殺者」と呼ばれるテロリストが子どもを電気ドリルで虐殺するシーンが出てきます。
思わず目をそむけたくなるシーンですが、恐ろしいことにこのテロリストも実在したといいます。
あの砂漠地帯の戦闘シーンは映画の中だけでなく、今も中東の紛争地帯で現実として起こっているのでしょう。
でもそこに新たな「番犬」を送り込むのがいいことなのかどうか…。考え込んでしまいます。

◇ ◇ ◇

イーストウッド監督がこの作品を作ったのが84歳の時というから驚いてしまいます。
これだけの傑作を作ったら、もう満足してしまってもよさそうなものなのに、さらに昨年にはこれも実話を映画化した感動作『ハドソン川の奇跡』を発表しています。
イーストウッド監督には不老不死の薬でも飲んでもらって、これからも僕らの心を動かす作品を作り続けてほしいと望まずにはいられません。