マチフル -machifull-

新潟や日本や東南アジアの街ネタブログ。見たり聞いたり読んだり買ったりの感想メモも。目指すは陸マイラー。

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【世界屠畜紀行】苦手な人は“閲覧注意” でもいつか行ってみたい「屠畜」の旅

こんな旅がしてみたい!と本気で思ってしまいました。
内澤さんのルポが好奇心に満ちて、本当に楽しそうだったから。

ルポライターの内澤旬子さんが日本や世界の屠畜の現場を取材した『世界屠畜紀行』を読みました。
この本はもともと、差別や搾取と闘う月刊誌『部落解放』の連載をまとめたもの。
そんな闘う雑誌のイメージとは違って、内澤さんのルポは明るくあっけらかんとしています。

 

世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR (角川文庫)

世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR (角川文庫)

 

 

それは内澤さんが、みんな肉を食べているのに、動物を殺して肉にする屠畜の仕事に対して偏見があることに、心の底から疑問を感じているからでしょう。
内澤さんは、まるで厨房で達人技を駆使して料理をする三つ星シェフのように、屠畜の現場を描いています。
でも料理と屠畜って本当はつながっているはずなんですよね。

◇ ◇ ◇

今なお一部に偏見がある日本の屠畜場は、実はハイテクと職人技に支えられた世界でした。
東京の芝浦屠場で牛や豚を屠畜し肉に加工する様子を、内澤さんは精細なイラストで再現してくれています。
牛を屠畜する時、額から尾まで背骨沿いにワイヤーを通して牛の動きを止めるとは知りませんでした。
肉加工の様々な過程で職人的な技が生きています。

一方アメリカの屠畜場は極度に合理化と機械化が進み、働く人にとっては「最低の仕事」になっているとか。
屠畜の旅は、日本とアメリカの働き方の違いも浮き彫りにします。

海外では屠畜という仕事に偏見がないかというと、これは宗教観など国それぞれというほかありませんが、特に途上国では屠畜が日常生活の近いところにあると感じます。
お客の目の前でニワトリの首をはね、蓋のついたバケツに閉じ込め、バタバタ騒ぐ音がしなくなったら取り出し、熱湯につけて羽根をむしって、はい!鶏肉1羽分一丁上がり、というのは僕もマレーシアの市場で見たことがあります。
見慣れない僕は「うわぁ…」と感じましたが、内澤さんはこれで新鮮な鶏肉が手に入るのはうらやましいと言います。

日本の屠畜現場はたしかに衛生的で、BSEやO157などにも対応できていると思います。
肉も魚も食べやすく加工されパックされて売るのが普通になっています。
でもこのことは「動物を殺して肉にする」という、人間が生きていく上で当たり前の行為を隠していると言えます。
そこから新たな偏見さえも生まれかねないとも思います。

◇ ◇ ◇

ウチのムスメなんて、鮭は切り身一つが1匹と本気で思っていましたから。
ムスメの名誉のために説明すると、川を泳ぐ鮭は知っている、でもそれとスーパーで買って食卓に上がる鮭の切り身とがつながらないんです。
村上あたりの学校では塩引き鮭の作り方くらい食育の授業か何かでやるのかもしれませんが。
まして鶏や豚がどうなって美味しいお肉になるのかなんて子どもには分からないですよね。

食卓のお肉と、豚やニワトリをどうつなぐか―。
まずはムスメをマレーシアの市場に連れて行ってみようかな、と感じた一冊でした。